連載：おいもと僕の15年芸人・伊藤智博（LLR）

第五話変わった自分

「最近、なんか明るくなったよね」

バイト終わり、店長に言われた。
前まではそんなに暗かったのか？と一瞬思ったけれど、
たしかに暗かったんだと思う。

「あ、ごめん。別に前が暗かったってわけじゃないんだけれど、、、」

店長は優しくて気遣いのできる人間。
このことに気付けたのも実は最近だ。
大学時代のバンドの仲間たちとのすれ違いを経験してから、人と深く関わることを避けていたところもある。
なにかを捨てて前に進む勇気もなかったこの3年間、他人の良さも見ようとせず、
ただただ自分を騙すことしかできなかった僕は、たしかに暗い人間だったんだろう。

「今日、この後ヒマ？　もし良かったらさ、軽く飲みにでも行かない？」

3年間このバイトを続けて、歓迎会や送別会に顔を出したことはあったけれど、
プライベートの誘いなんて初めてだ。

「あれ？　森本くん、お酒飲めるんだっけ？」

誰かとお酒を飲むなんていつぶりだろ？　
大学時代はお酒を飲むと顔が赤くなるのがコンプレックスで、
最初の1杯を飲んだらあとはウーロン茶で、まさにお茶を濁してたりしてたな、なんてことを思い出した。

本当に明るくなっているんだとしたら、理由はきっと、おいもと暮らし始めたからなんだろう。

おいもと暮らし始めてたくさんの発見があった。
「こんなに壁で爪を研ぐのか！」とか、
「机の上に置いてあるもの全部落としてまわるのか！」とか、
「本当にこんなにかわいい仕草するのか！」とか。

そして、自分がねこに話しかけるタイプの人間だったっていうのも新しい発見だった。
今まで人との関わりを避けてきた分を一気に取り戻すかのように、
僕はおいもに話しかけている。
最初は、たまに冷静になって恥ずかしくなったりもしたのだけれど、
誰に見られてるわけでもないことにも気付き、おはようからおやすみまで、
家にいる間にする行動を全部おいもに報告している。
こんな自分の性格が、1番の発見だったかもしれない。

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